映画『夕凪の街 桜の国』 鑑賞記

先週土曜は月始めの「映画の日」だったため、
久々にカズ山氏と映画を観に行った。
原爆をテーマとしたこの作品、内容が重くて辛いのでは…という先入観から漠然と敬遠がちにしていたのだが、数日前にカズ山氏から原作の漫画を見せてもらった事で、映画にも興味がわいた次第。
※以下、ネタバレあり。注意!

あの日の辛い出来事を思い出したくないから
「語れない」「忘れたいけど忘れられない」
そういう人々の視点で描かれたこの作品に、
自分の中の至らなかった部分に気付かされた思いがした。
心に激しく訴えるのではなく、静かにじわー…と染み渡ってゆくように。

映画『夕凪の街 桜の国』は、2部構成の物語。(原作では3部構成)
戦後10余年を経た広島を舞台に、
被爆体験を持つ1人の若い女性の目線で描かれた第1部「夕凪の街」と、
現代の日本を舞台に、被爆2世である1人の若い女性の目線で描かれた
第2部「桜の国」とで成り立っている。
「桜の国」では、節目毎に「夕凪の街」が回想場面として現れ錯綜する。
どちらも、あくまで淡々と日常を描きながら話が展開してゆくのだが、
ラストにかけて1部と2部はきれいに繋がり、静かな感動を呼ぶ。

「夕凪の街」の主人公・皆美は、一見素朴でのんびりした明るい女性ながら
心の内では、原爆で失った家族や友人達を想い、
自分が生き残った事に負い目を感じて
「うちは幸せになったらいけんような気がする」という強迫観念に苛まれている。
原爆は次の世代にも影を落とし、
「桜の国」の主人公・七波もまた、触れたくない悲しい過去を背負い、
被爆2世に対する差別にも直面する。
観客 (読者) にしてみれば「原爆の事は、あなたには何も罪がないのに」
「負い目を感じる必要なんてないのに」
(皆美自身が言うように) たとえ誰かに「死ねばいい」と思われて
原爆を落とされたとしても、あなたは決して悪くないのに。
…と思えて仕方がないけれど、
程度の差こそあれ、誰しも「思い出すのも辛い」「いっそ記憶から抹消したい」
ほどの苦しい過去の2つ3つくらいは背負いながら生きていて、
己の中の醜い部分は、己が一番よく知っている (と思い込んでいる場合もある)
から、自分で自分を追い詰めてしまいがちになる。
当事者が背負っている苦しみは、当事者にしかわからないのかもしれない。
まして被爆体験は、未体験の者にとっては想像を絶するもの。

自分が幸せになる事を躊躇っていた皆美は、愛する男性の真心によって救われる。
(それだけに、その直後に起こる悲劇は残酷すぎて、涙なしには観れない。)
七波は触れたくなかった過去と向き合い、両親が生きてきた歴史に想いを馳せ、
「私はこのふたりを選んで生まれてこようと決めたのだ」と自らを納得させて
運命を乗り越える。
しかし現実には、彼女達のように心が救われず
「思い出すと辛いから語れない」「忘れたいけど忘れられない」
「そっとしておいて欲しい」
そんな苦しみを背負った人々が、今日もなお大勢いるのだろう。
その事を、せめて気持ちのどこかに留めておかねば、と思う。
それだけで精一杯。

原作(作/こうの史代)は、原爆をテーマにした内容でありながら
絵柄は素朴で平和でほのぼのしていて、
原爆投下当日の描写も、皆美の回想シーンの数コマにしか登場しない。
しかし第1部終盤、皆美の体に原爆の後遺症が出始め、徐々に死に至る描写は、
“あくまで皆美目線”で描かれている原作の方が、映画よりも皮肉で生々しく
ショッキングである。(映画版は映像が綺麗すぎる印象を受けないでもなかったが、
あれはあれで良かったのだとも思う。)
何より心に突き刺さるのは、原作も映画も同じく、皆美の臨終の言葉。

> 嬉しい?
>十年経ったけど、原爆を落とした人はわたしを見て
>「やった!またひとり殺せた」
>と ちゃんと思うてくれとる?

原爆を作った人々。落とした人々。
そして今も「原爆投下は戦争を終わらせるために必要だった」と主張する人々が
この皆美の言葉を読んだら、どんなふうに受け止めるのだろう。


当ブログ内関連記事 (「はだしのゲン」について記述)
映画『夕凪の街 桜の国』公式サイト
Amazon.co.jp: 夕凪の街 桜の国

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